病気の説明
先天性大脳白質形成不全症とは
先天性大脳白質形成不全症は、脳の白質の発達がうまくいかないことが原因で起こる病気の総称です。代表的な疾患としてペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)があります。PMDが「HLD1(原因遺伝子:PLP1)」という分類で、疾患概念が確立されていないものまで含めると26種類(HLD26)まであることが判っています。
先天性大脳白質形成不全症の診断には、遺伝子検査やMRIなどの画像検査が用いられますが、検査をしても原因がはっきり分からない患者さんも多くおられます。2024年時点でこの病気を治すための治療法はまだないため、リハビリや対症療法などが行われていますが、病気の治療を目指して日々研究が続けられています。症状の種類や程度は患者さんによって非常に幅があることが特徴です。
先天性大脳白質形成不全症 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター (shouman.jp)
先天性大脳白質形成不全症の分類
第1群;主として中枢神経の先天性髄鞘形成不全を呈する疾患群
疾患名 | OMIM | 略号 | HLD分類 | 遺伝形式 | 遺伝子座 | 原因遺伝子 |
---|---|---|---|---|---|---|
ペリツェウス・メルツバッハ病 Pelizaeus-Merzbacher disease | #312080 | PMD | HLD1 | X-linked | Xq22 | PLP1 |
ペリツェウス・メルツバッハ様病1 Pelizaeus-Merzbacher-Like disease 1 | #608804 | PMLD1 | HLD2 | AR | 1q42.13 | GJC2 |
基底核および小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症 Hypomyelination with Atrophy of the Basal Ganglia and Cerebellum | #612438 | HABC | HLD6 | AD | 19p13 | TUBB4A |
18q欠失症候群 Chromosome 18q Deletion syndrome | #601808 | 18qDEL | AD | 18q22-qter | MBP | |
MCT8 欠損症(アラン・ハーンドン・ダドリー症候群) Monocarboxylate transporter (MCT) 8 deficiency | #300523 | AHDS | X-linked | Xq13.2 | SLC16A2 | |
Hsp60シャペロン病 Mitochondrial Hsp60 Chaperonopathy | #612233 | MITCHAP60 | HLD4 | AR | 2q33.1 | HSPD1 |
サラ病 Salla disease | #604369 | SD | AR | 6q13 | SLC17A5 | |
POL3関連白質変性症 POL3-associated leukodystrophy | #614258 #614366 | HCAHC | AR | 10q22.3, 12q23.3, 6p21.1 | POLR3A, POLR3B, POLR1C |
第2群;中枢神経および末梢神経の先天性髄鞘形成不全を呈する疾患群
疾患名 | OMIM | 略号 | HLD分類 | 遺伝形式 | 遺伝子座 | 原因遺伝子 |
---|---|---|---|---|---|---|
先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症 Hypomyelination and Congenital Cataract | #610532 | HCC | HLD5 | AR | 7p15.3 | FAM126A |
脱髄型末梢神経障害、中枢性髄鞘形成不全症、ワーデンバーグ症候群、ヒルシュスプルング病 Peripheral Demyelinating Neuropathy, Central Dysmyelinating Leukodystrophy, Waardenburg Syndrome, and Hirschsprung Disease | #609136 | PCWH | AD | 22q13 | SOX10 | |
それ以外の先天性大脳白質形成不全症 |
研究班について
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP:National Center of Neurology and Psychiatry)神経研究所 疾病研究第二部 室長の井上健先生と、自治医科大学教授の小坂仁先生、村松一洋先生がキーパーソンとなり、それぞれ研究を進められています。
井上先生は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research and Development【略称読み:エーメド】)から「難治性疾患実用化研究事業」の研究開発助成を受けて研究を進めています。「人工miRNAを搭載した遺伝子発現抑制AAVによる先天性大脳白質形成不全症の遺伝子治療法開発」や「未分類の新規先天性大脳白質形成不全症の臨床遺伝疫学情報の収集によるエビデンス創出研究」などのプロジェクトに関わっています。人工miRNAを搭載~の研究について、2022年度は24,700,000円の予算が下りています。
小坂先生と村松先生は、厚生労働省の厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業から補助金(令和5年度は19,500,000円)を受けて「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」という課題名で村松先生と共に活動されています。令和6年度の構築班名簿が難病情報センターのサイトで公開されており、家族会からも「研究協力者」として、代表の田中がクレジットされています。また小坂先生は、毎年行われている市民公開セミナーにおいて診察の時間を設け、先天性大脳白質形成不全症のお子さんを多数診察されています。